縁をつなぐ記念館|盛田昭夫塾 岡田直子さん

ソニー創業者の一人である盛田昭夫氏とその妻良子氏の生涯を、盛田家に残された資料とアーカイブをもとに紹介する記念館「盛田昭夫塾」。SKGは展示計画からプロジェクトに参加し、展示構成、館内パネルデザイン、キャプション、コピーライティング、サイン、WEBサイト制作まで手掛けました。開館から2年を迎える盛田昭夫塾に伺い、館長の岡田直子さんとプロジェクトを振り返ります。

岡田直子
盛田昭夫塾、館長。一般財団法人天涯文化財団 代表理事。ソニー創業者盛田昭夫の長女であり、2020年自宅に残る盛田家の資料や昭夫氏、良子氏ゆかりの品々を展示する記念館「盛田昭夫塾」を設立。企画からキュレーションまで手掛けたほか、記念館オープン後は館長として運営に携わっている。

助川 今日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。盛田昭夫塾がオープンしてすぐにコロナ禍になってしまい、直子さんとお会いするのもしばらくぶりとなりました。

岡田 開館して2年。早いですね。

助川 今日は社員研修も兼ねていまして(笑)スタッフみんなで来ました。新しいスタッフもいるので、改めてプロジェクトを振り返りながら記念館を見せていただいてもよろしいでしょうか。

岡田 もちろんですよ。私がご案内しましょう。

コンテンツまでみんなで関わる

岡田 盛田昭夫の記念館だと、普通入ったらウォークマンか何かあるかと思うじゃないですか?でも、最初にあるのはアタッシュケースとちらし寿司。ビジネスマンの父のシンボルとしてアタッシュケース、おもてなしが得意だった母のシンボルとしてちらし寿司のレシピでお迎えしているんです。

助川 この時点で、他の記念館とは一味違いますよね。上から目線じゃないというか、
展示しているので良かったら見てくださいという気軽さを感じます。

岡田 ほんとにそうなんです。実家にあったものを整理して並べてるだけで、本来なら学芸員さんが一つ一つ掘り下げて解説すると思うんですが、ここは私がキュレーションから運営までやっているのでもう並べるのだけでも精一杯です。

海外旅行がまだ珍しかった時代から世界を飛び回っていた昭夫は、最後はプライベートジェットをも使い、持てる限りの時間を人と会うことに費やした。夢の実現に向かう昭夫の並ならぬ想いと行動は、波紋のように世界に広がっていった。

助川 入って来た瞬間に見せたかったのがこの世界地図と受賞歴なんですけど。
昭夫さんは短期間に世界をぐるぐる回っていて、そこで築いた縁が認められて受賞や勲章につながっていて、それを対比させて並べたんですよね。

岡田 そうそう。ソニートラベルっていう旅行会社が父の飛行機を手配してくれていたんですけど、その履歴が1970年から93年までの23年間分残っていたんです。ニューヨークに111回で、ハワイに61回で…

助川 世界地図に行った場所と訪問回数をプロットして展示したんですが、記録とデザインの表記が合っているか、場所が正しいか、スペルが正しいか、確認するのが本当に大変でした(笑)

助川 このエリアはヒストリーですね。

岡田 これはお蔵から出てきた箱で出産のお祝いのお手紙とかへその緒とかが入っていました。家系図は盛田家に残っていた資料をもとに作成しています。

助川 監修者であり、長年盛田家を研究されている竹内宗治さん(鈴渓資料館元館長 )から住民票や過去の記事等をたくさんお預かりして、整理から始めて図に起こしたんです。

岡田 そうでした、ここは助川さんに託しました(笑)

助川 こうしてただ単にデザインするだけでなく資料から図を起こしたりコンテンツに踏み込んで制作に関わるのは、やりがいがありました。

岡田 助川さんは言葉やキャプションの検討にも協力してくれて、最終的に展示を形にする一番シビアなところを担ってくれましたね。

助川 はい、僕にとってはとてもいい経験になりました。私見なんですけど、グラフィックデザイナーって、コンテンツになかなか踏み込まないんですよ。だけど、このプロジェクトで直子さんと向き合ってる時には「そのスタンスだと駄目だ」と思ったんです。

岡田 そうですか、私は「この人はグラフィックで」「この人は建築で」っていうふうに人を見ていなくて。建築の人が色の話をしたって、グラフィックの人が空間の話をしたっていいと思っているんです。

助川 直子さんがそのような考えをお持ちなのを感じていたので、非常に意識しました。もっと自分の意見を言わなければいけないと思いましたし、「直子さんのためにもこうあるべきだ」っていうのは結構明確にあって、それで自然とコンテンツの中に踏み込んでいったんです。

縁でつながるプロジェクト

ダイニングテーブルには昭夫のイニシャルである「AKM」があしらわれた特注の食器が並び、招待客1人ひとりを満足させる料理が、時に良子の手によって時にマキシム・ド・パリからの一流のケータリングによってふるまわれた。

岡田 そしてここが私が一番思い入れのある展示で、盛田家のゲスト用のダイニングルームを再現したエリアです。小学校5年くらいの時にこのダイニングがあったお家に引っ越したんです。白洲次郎さんやマイケル・ジャクソン、いろんな方をここでおもてなししました。

助川 言わば、この記念館のメインですよね。

岡田 そうそう、やっぱりね盛田家の縁を築いたところなので、私は好きですね。

助川 この記念館は建物が6個のキューブで構成されていて、キューブ毎にテーマがあるんですけど、全体を貫くテーマとしては「縁」なんですよね。

岡田 もともと父の語録に「人生はやっぱり縁ですね」っていう言葉があるんですけど、展示内容が固まってきた最後の方で、「テーマは一体何だ?」って考えると、やはり「縁」だと思ったんですよ。

助川 僕はこのプロジェクト自体も縁がつないでいると思っていまして。直子さんの縁で集まった人たちでチームができているんですよね。

岡田 私の場合は建築や美術館の企画のような業界で仕事してたわけじゃないですから、力になっていただけそうな方に声を掛けたらみんな集まってきてくれたんです。
あとは若い人とやりたかったんですよ、今どきのクリエイターさんにお仕事してもらわなければ、今どきの人たちには喜んでもらえないでしょうし。

助川 僕が若いかどうかはわからないですが(笑)

岡田 私はプロのキュレーターではないですから、どういう順番で並べればお客さまが喜んでくれるかなんて学んだことがない。ですから建築や展示については専門の方にお願いするしかないと思いました。

助川 そうですね、この規模のプロジェクトを建築、展示コンテンツ、グラフィックまで全て一人でやるのは無理がありますよね。

岡田 私は知ってる人で信頼できる方と円陣組むのが好きなんですよ。O型なので(笑)

助川 O型の特徴なんですね、僕もO型です(笑)

岡田 そうでしたか、やっぱり(笑)
父もそうでしたが、私自身も縁で生かされてきたと思っています。今回のプロジェクトにもこれまでのご縁がつながっていて、いいご縁だった方にまたお声をおかけして、というやり方で進めました。

みんなでつくった記念館

盛田昭夫塾を見学した後は、記念館の隣に残る盛田家が代々住まわれていたお屋敷に場所を移してお話を伺いました。※本家と呼ばれるこのお屋敷は一般公開されていません。

助川 それにしてもアーカイブの量の多さと質の高さをあらためて感じました。

岡田 「この塾を通じて何を伝えたいですか?」ってよく聞かれるんですけど、ご覧いただいて分かると思いますが、いろんな楽しみ方ができるので、答えるのが難しいんですよ。

助川 確かにどういう視点で切り取るかによって、楽しみ方も違いますよね。

岡田 女性が来たら食器を見て楽しんでいってくださるし。ワインがお好きな方はワインリストをゆっくりご覧になったり、歴史がお好きな方は家系図も楽しんでいただけるし、来る人によって、どこかしら引っ掛かるところがあると思うので、自分で面白いところを見つけていただいて楽しんでもらえれば、それでいいと思っています。

助川 学芸員を入れたりしないで、直子さんがキュレーションしているのもこの記念館のポイントですね。ソニーの昭夫さんの一面もあれば、ご家族としての昭夫さんの一面もある。直子さんの視点で編集しているのが、この記念館の面白さにつながっていると改めて感じました。

岡田 そうですか、ありがとうございます。

助川 ご家族であるが故のこだわりもあったのではないかと思います。

岡田 よくみなさん私のわがままを聞いてくださったなと思って感謝していますよ。私も嫌なものは嫌だとか、やりたいものはやりたいって言い続けてましたけど、でも皆さんも自分が曲げられないところは絶対曲げずに意見を出していただいて、いいチームワークだったと思います。

助川 そういう意味で、仕事は仕事なんですけど、みなさんと一緒につくったという感覚がありますね。

岡田 「みんなで頑張ろう」「頑張ったね」っていうそういうのが好きなんですよ、私は。

助川 O型ですからね(笑)

岡田 そうそう(笑)でも、この記念館はほんとに一人じゃできなかった、皆さんのおかげだと思ってます。助川さんも本当にありがとうございました。

助川 こちらこそありがとうございます。この縁が続いてまた新しいプロジェクトをご一緒できるといいですね。

岡田 そうですね。ご縁がいいご縁だったらば、プロジェクトが終わっても、きっとまた何か違うことやる時も「ねえ助川さん助けて」って言うに決まってます。その時は是非よろしくお願いします。

助川 そうおっしゃっていただけると嬉しいです。本日はありがとうございました。

テキスト 永井史威
2022年8月

まとめ
記念館が開館した今も岡田直子様とSKGのご縁は続いています。展示差し替えがあった際のキャプションや盛田昭夫氏生誕100年を記念した企画展示の制作はもちろん、本家のサイン、チャージマンプロジェクト等に発展。チャージマンプロジェクトはまた別の機会にご紹介したいと思います。

お近くへお越しの際は、是非盛田塾へお越しいただければ嬉しいです。

また、今回研修として記念館に同行したスタッフが自分たちの目線で感じたことをまとめたレポートも下記から読むことができます。あわせてご覧ください。
https://note.com/skgcoltd/n/ne4b6d5a91302

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