新たな定番になるためのブランディングデザイン。若廣の新業態「すしべん」の開店、継続するブランドのアップデート。

焼き鯖すしでおなじみの(株)若廣様(以下若廣、敬称略)が東京・亀有駅に新店舗を構えるため、インテリアデザインを含めたデザイン一式をご依頼いただきました。今や空港などでも定番となった焼き鯖すし。若狭の伝統食である焼き鯖すしを全国的に広めたのが若廣です。焼き鯖すしは大きなターミナル駅や空港で販売されていますが、亀有駅は乗り換えのない下町の駅。ここに新店を出すならば、これまでの焼き鯖や若廣のブランドとは違う、新たなブランドを確立したいとSKGにお話をいただきました。
それを受け、SKGは普段使いしてもらえる新店舗のネーミング、グラフィックデザイン、インテリアデザインなど、トータルで担っております。開店後も関係は継続しており、コンセプトやデザインをアップデートし続けています。

◎リサーチ 工場見学や試食の体験から

普段若廣が扱っている焼き鯖すしなどの棒寿司は「ハレの日商材」と呼ばれ、日常的ではない特別な日に購入され食されるものとされています。一方、亀有でオープンする新店舗では普段使いしてもらえる稲荷寿司や巻き寿司のような「デイリー商材」を扱うことが決まっていました。

まずSKGがお願いしたのは、若廣の工場を見学させていただくことと、試食をさせていただくことでした。どういった商品づくりをされているのか、どういった商品を販売されるのか、体験から見えてくることもあると考えお願いしました。そこで気づいたのが、オリジナルな商品作りです。実際に試食してみると、一見ありふれた稲荷寿司や巻き寿司でも、焼き鯖すし作りで培った技術や味わいをいかした、他社にはない工夫が凝らされていました。棒寿司の定番となった焼き鯖すしのように、新店舗でもデイリー商品で新たな定番を生み出そうとされていることが分かりました。

JR亀有駅のすしべんが入る前の状態。みどりの窓口を閉鎖して随分長い間この状態だったそう。店舗にする計画として若廣の東京支社が亀有にあるご縁もあり、声がかかった。

◎プラン デイリーでも新基準を作る

リサーチの結果を受け、「稲荷寿司や巻き寿司でも新基準を作る」をプランに。例えば同じ稲荷寿司というメニューでも他にはない若廣らしい稲荷寿司をつくり、それがデイリー寿司の新しいスタンダードとなるように、と。これをもとに新ブランドのネーミングを考えます。
屋号を聞いて売っているもののイメージが浮かぶ、そんなネーミングを目指しました。例えば「〇〇寿司」というネーミングだと、にぎり寿司のイメージが浮かびます。しかし亀有のお店ではにぎり寿司は扱いません。

開店時から人気の焼いなり。稲荷で包んだ後、バーナーで焦げ目をつけ香ばしくなっている。新基準の一つとして確立していきたい。

新店舗は、普段使いできるような弁当屋のような立ち位置と考え、「すしべん」というネーミングをご提案いたしました。熟練の職人が手がけるオリジナルなお寿司を、弁当感覚でもっと身近に、もっと気軽に手にとってもらえたらという思いが込められています。
「すしべん」の表記もあわせてご提案しました。漢字表記で「寿司弁」とすると寿司の弁当を扱っていることは伝わりやすくなりますが、伝統的でありふれた「寿司」という限定的なイメージも否めません。ひらがな表記で「すし」とすることで、新しいオリジナルの「すし」も含めたより広いイメージで伝わることを狙いました。

◎コンセプト 「すしベンチャー」

SKGから表記に関するご提案はここまででした。すると提案の場で、クライアントから「べんはベンチャーの『ベン』でもあるね」と半ば冗談のような発言が。これを聞いた瞬間、核心を突いたと感じました。
・若廣が若い会社であること
・焼き鯖すしを作り出した意欲
・デイリーでの新基準をつくりたい思い
・「ハレの日商材」から「デイリー商材」への挑戦
・新ブランド立ち上げ
・既存店に対し、亀有店を実験的店舗として捉えていること
このような要因がすべてベンチャーという言葉に当てはまると確信したのです。

手や足を動かしながら様々な考察を行き来していると、理論を積み上げるだけでは見えてこない領域にふいにたどり着くことがあります。
この領域に気づき、それを拾い上げること。これもSKGが大切にしていることです。

以上から「すしべん」というひらがな表記に決定しました。ただしこのコンセプトは外向けに伝えていきたいものというより、社内向けの意味合いが強いため、社内での共有までに留めています。

◎デザイン

伝統的だが新しい、そんなニュアンスが伝わるシンボルマークを作ろうと考えました。特に伝統的という意味で、筆文字や江戸文字の一つであるヒゲ文字なども参考にします。亀有という土地柄、江戸文字は相性が良いかもしれないと作業を進め、結果的には家紋も連想させる新しい形状に仕上がります。

シンボルマークの案出し風景。右下に最終となる形の原型が。

しかし、ヒゲ文字から発想した真ん中の二重線には箸の意味を込めましたが、どうも軽い印象になってしまいました。手を動かしながら試行錯誤していた時、担当デザイナーのひとりが二重線の上に四角を置きます。 すると箸が箸袋に収まったような見え方に。「それだ!」 ただの箸ではなく割り箸にすることで、より一層お弁当の意味が付与された瞬間でした。
ここでも閃きが起き、そのデザインが採用に至りました。

シンボルマークの変遷最終段階
シンボルマークの解説

シンボルマークとロゴタイプを詰めながら、インテリアデザインも同時に進めていきます。担当してもらうのは(株)イド(以下イド、敬称略)。イドとは工場見学や試食もご一緒しています。何かお寿司に直接関係するモチーフを入れたいと要望を伝え、提案をもらいました。その案は、壁面の一部に海苔を模した鉄板を配置し、その上に米を模したタイルを貼るというものでした。
電車運行上、駅は常に小さく振動しているので、落下物の危険性が高く、なるべく落下の危険性を避ける必要があります。そういった立地の都合上、店舗は袖看板を出せない、看板を大きくできない、暖簾も出せないなど、一般的な路面店舗でできることが制限される条件下にありました。これを受け、店内装飾で人の目を留める必要があると考えます。外部から視認性の高い位置に装飾壁面を設け、そこへ食にまつわるアートを掲げることに。海苔を模した壁面に米タイルと具材写真が貼られ、巻き寿司モチーフのインテリアが完成しました。

写真家の北原一宏氏に、著作『世界の美しい野菜』(出版:エクスナレッジ)のように、巻き寿司にまつわる食材を撮りおろしていただきました
鉄板の質感と上部をカールすることで海苔を模している
値札などの細かいアイテムもデザイン

まとめ

継続的関係でブランドをアップデートし続ける
SKGではブランド発表や開店後も継続的にお付き合いさせていただくことで、コンセプトやデザインのアップデートを常に続けています。
リサーチ→プラン→コンセプトの工程は一度で終わるものではなく、繰り返し考察し、都度更新するものと考えます。
今、新規企画に向け、すしべんのこだわりポイントをさらに具体的に言語化すべく取り組んでいます。

2019年3月6日

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