BtoB事業の成長を加速するブランディングとは

京都の産業機器メーカー(株)三橋製作所様のブランディングデザイン。ブランドコンセプト「手に変わる“手”を。」をつくる、言わばデザインの手前の過程で、MITSUHASHIとSKGは何をしたのか、どのように導いたのかを事細かに公開します。

[ ポイント ]

  • 何にフォーカスしてブランドコンセプトを打ち立てるのか

ブランディングの背景

コミュニケーションの狭さへの危機感
三橋製作所様(以下MITSUHASHI、敬称略)は、包装関連装置やコンバーティング関連機器といったニッチな分野の機械を開発する、産業用機械器具製造会社です。

さて、この時点でMITSUHASHIの具体的な事業内容がどういったものか、想像がつくでしょうか。MITSUHASHIは、ターゲットに確実に自社の事業内容が伝わりきらない、という点に危機感を抱いておられました。
事業企画者や若手発注者、そして採用対象となる学生や、地域貢献として一般の方々にも情報を届けたい。そのためには、BtoB事業に散見される、関係する業界の方々としかコミュニケーションがとれていない現状を変える必要があります。

グループ会社である、三橋サンブリッジのブランディングを2年前に行った際、社内外における大きな変化を実感・認識されていたこともありMITSUHASHIのブランディングプロジェクトが決定しました。

社内プロジェクトチームの創出
プロジェクト開始にあたり、各部署から約1名ずつ選出し、プロジェクトチームを組んでいただきました。
チームを組む目的は、以下の3つです。
・スタッフ一人一人が自社ブランディングを自分ごと化する
・ブランドが社内に浸透・機能する
・話を円滑にまとめていく

これらを遂行するために、SKGではプロジェクト開始時からスタッフの方々にも参加をお願いしています。

ブランディングのフロー

SKGが実践したブランディング術をご紹介します。

◎ヒアリングと競合や業界のリサーチ

製品そのものに強みがあるとは限らない
自社と自社を取り巻く現状のリサーチを行います。リサーチ対象は主に4つ。

(A)クライアント (B)競合他社 (C)業界 (D)似たサービスを持つ業界

MITSUHASHIには、2事業4分野の製品群があります。それぞれの分野で競合他社が挙がりますが、各社共に、似たような機能・品質・価格の製品を製造・販売していることが分かりました。
そこから「製品そのものでは他社との差異化ははかりにくい」という仮説を立てました。

他業種で見られたブランド手法の参考例
(D)似たサービスを持つ業界のリサーチで検証した中から、他業種で行われたブランディング事例を3つ、簡単にご紹介します。

①いろはす:競合の視点を変え、商品そのものでの差別化をしない。
 多くの商品は水の産地で差別化をはかっていますが、「いろはす」の差別化ポイントは、容器がエコであることでした。

②ライザップ:隣接異業種への拡大も視野に入れたブランドコピー
 「結果にコミットする」。これはスポーツジム事業だけでなく、英会話や料理教室といった他の自己投資ビジネスにも通用するものでした。

③クリニカ:商品・ブランド単独の宣伝ではなく、業界自体の啓蒙活動
 「歯医者さんに褒められる歯に」をブランドコピーにし、歯磨きなど、予防歯科の大切さを訴え続けました。広告には商品を出していません。予防歯科に必要なさまざまな商品が揃っているクリニカ、として、複数の商品を一度にアピールすることにつながりました。

それぞれMITSUHASHIに置き換えた仮説を立てながらリサーチしました。

◎フォーカスすべきブランドの本質を探る

ソフトに本質を見出す
ポジショニングの方法として、ブルーオーシャン を見つける場合と、そのブランドの本質を探る場合とがあります。
今回は本質を探る方向に向かいました。
ブランドの「良さ」と「他と違う」ところ、このどちらにもあてはまる部分が、MITSUHASHIの本質だと考えられます。

ワークショップ形式でフォーカスポイントを探った途中経過

受注から納品までの業務フローを列挙し、本質へフォーカスするポイントを探るのですが、前述した通り、製品には他社との差別化ポイントを見出すことはできませんでした。
一方、ソフトな部分である「企画(コンサルティング)」「アフターサービス」には、他社に負けない強みがあるとプロジェクトメンバーからも多数の意見が。
ここに本質を見出していきます。

※ブルーオーシャンとは、競合相手のいない未開拓市場のこと。

◎導き出したブランドコンセプト

提供しているのは課題解決のための手段
業務フローの中でも「企画(コンサルティング)」には自信を見せたプロジェクトメンバーたち。丁寧にインタビューする中で、課題解決力を伺わせるエピソードを引き出すことができました。

高度経済成長の最中、インスタントラーメンの需要が急速に伸びていた頃。営業マンがクライアント先で目にしたのは、製造ラインに流れる麺の上に、一つずつ粉末スープを手作業で置く社員たちの姿でした。
「大変やねん、機械でどうにかならへんか、あんたら機械屋さんやろ?」
そう言われた営業マンは、「顧客の課題を解決しなくては」という強い使命感を持つことに。ここから自社オリジナルの機器が生まれ、結果、もともと下請け業者であったMITSUHASHIは、自社ブランドを持ち、食品分野へ参入することとなったのです。

後にこの内容をウェブコンテンツ「三橋らしさ」として記事にしています。

この逸話から本質を見出し、生まれたブランドコピーがこちらです。

MITSUHASHIが提供しているのは「手段」であり、それによって顧客の課題を解決するという目的を果たしています。
プロジェクトメンバーを交えたワークショップを経て最終決定しました。

製品そのものにフォーカスしていないこのコピーは、隣接異業種へも通じる可能性、そして産業機器業界を啓蒙する可能性も秘めていると考えます。 例として挙げた、他業種で見られたブランド手法にも通じるものがあります。

◎デザイン

コピーを体現するデザイン
実制作に入る前に、伝え方のコンセプトやモチーフを設定します。競合他社との差別化だけでなく、産業機器業界全体における差別化も視野に入れ、検討した結果、手のグラフィックと製品写真とを組み合わせることで「手にかわる“手”」を表現することに。

岡山の三橋サンブリッジに続き、(株)bird and insectさんに写真と映像を担当していただきました。MITSUHASHIが持つ2事業4分野に、それぞれカラーを設定。その製品に設定されたカラーの紙を背景に、各製品を撮影していただきました。

コーポレートカラーは赤。情熱を表現。2事業4分野に設定した各カラーは、コーポレートカラーの赤と合わせた際に、赤が引き立つよう設計。
写真:bird and insect

1分25秒/2019年7月撮影
もともと顧客が担っていた「手」を、手のアニメーションで表現。アニメーションは実写の動画に比べて動きを遅くし、「手」より機械がスムーズであることを暗に示唆している。BGMは、数々のCM音楽を手がけるシンガーソングライターの上田修平氏が担当。ブランドコンセプトを機械でなく人にフォーカスしたことから、心臓の鼓動音に似ているとされるハウス・ミュージックの“4つ打ち”がベースになっている。

また、製品カタログでは、表紙に手のグラフィックを大きく用い、次のページに製品を掲載。ページをめくると「手に変わる“手”」が現れる構成を採用しました。

4分野ごとの製品カタログ表紙

◎まとめ

社員の自己実現が会社の価値を高める
今回生み出されたブランドコピー「手にかわる“手”を。」は、MITSUHASHIのブランドコピーでありながら、同時に、社員たちが仕事を通じて自己実現を達成するための大きな一助になりうると考えます。ブランディングがもたらす効果は、顧客やエンドユーザ、地域住民、競合企業、金融機関、株主といった外部の関係者だけでなく、社内にも大きく波及します。
インナーブランディングにより、自身の仕事の価値を再認識した社員は、向上心が高まります。その仕事ぶりは顧客の満足度アップにつながり、そしてまた社員の自己実現を促す。一人一人のパフォーマンスは最大化され、結果、事業成長を加速し、自社の価値を高めることにつながります。

撮影終了後、屋上にてプロジェクトチームで記念撮影

BtoB事業だけでなく、中小企業、行政などでは、業種や職種を超えたコミュニケーションを実現できていないケースが、多く見られます。いまだ、デザインやブランディングの活用が不十分であると考えられます。
企業のブランドを確立し、競争力を高めるためには、デザインの力を経営に活用することが有用であると、経済産業省もその意義や価値を広く提言しています。
ぜひ、御社の課題をデザイン思考で解決してみませんか?SKGでは御社の成長を促すブランディングデザインを実施いたします。
お気軽にご相談ください。

2020年5月

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