青柳(以下青):みなさまお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。
株式会社竹尾の青柳と申します。青山見本帖を担当しています。
STOCK MEMBERS GALLERYは、毎回何人かの方に作品を出していただいて、今回6年目になりますね。
STOCK MEMBERSになると、1年間を通じて紙に関連した工場見学や勉強会などを行い、その最後のイベントとしてここ青山見本帖で作品展をします。
1つのテーマで、3人で作品を作っていただいたのが初めてなので、今日はその辺を聞きたいと思います。
作品が多いですね。6年間の中でも最も多くて、15点。
全部把握するのに30分以上かかりました(笑)。普段は5分、10分程度で見終ります。
今回『生物展』の展示タイトルやコンセプトはどのように決まりましたか?
紙が“なまもの”?
助川(以下助):結構早くから3人で共通のテーマでやりたい、という話をしていましたね。
福島(以下福):タイトルは岩永さんが『生物展』がいいんじゃないかって。
岩永(以下岩):集まった時にそれぞれ一緒のものを作るかって。展示として面白くしていったほうがいいよね、って。
福:あと、せっかく3人で展示するなら楽しい展示にしたいねって。だったら、それこそ楽しいを紙につけて、『楽しい紙』とかそういう形にして3人でそれぞれ解釈して作ればいいんじゃないかな、ってところがスタートだったんですよね。
それに、生き物っぽいね、っていう話になって、タイトルをつけてくれたのが岩永さん。
より、生き物感が伝わるのが、生物(なまもの)だった。
助:3人それぞれ得意なことがある中で、意見しながら一緒にできて、僕はすごい良かったと思いました。
僕はブランディングをメイン事業にしているんですけど、ブランディングって差別化ですよね。この展覧会を差別化するのならどういう視点かなと話していました。変な視点ですけども、青柳さんが何年も展覧会を担当されている中で、一番アホっぽいって思われたら面白いなと(笑)
福:客目線じゃない(笑)
助:そうそう(笑) それと、TDCやADCといったグラフィックデザイン系の賞にこの展覧会を出品したい気持ちはありますか?と聞いたら、すぐ二人ともありません、と。三人で楽しいことやろう、って感じでぱっと決まりました。
福:具体的な中身としての軸の一つは、せっかく竹尾さんでやらせていただく展示だから、紙を使って紙を魅せる展示にしよう、っていうのは最初からあったんですよね。
助:デザイナー3人そろってみんなイラストレーター※1 使わないっていう。
青:紙を販売している僕たちとしては非常にありがたい展示ですね(笑)
アホっぽいかはさておいて(笑)、過去の展覧会から見たら差別化は大成功でしょうね。
会場MAPまで作られたのですね。
コンセプト文に「紙は不思議だ」とか「紙は愛おしい」とか書いていただいて、僕らとしては泣けてしまう文面なんですけど、ここに詰まった想い等解説いただけますか。
作品解説
「愛おしい」
岩:まず大前提として、生き物、なまものとも読むんですけど、紙を生き物と捉えた時に形容詞を5つ決めて、その形容詞に対して3人がそれぞれ作品にしています。
5つの形容詞は「愛おしい」「恥ずかしい」「怖い」「憎たらしい」「白々しい」。
まず「愛おしい」。僕のはコップと、穴あけパンチで小さい丸をいっぱい作って、置いています。小さい丸をコップに入れてもらい、その落ちていく様や溶ける様が「愛おしい」と表現しています。紙は水溶紙とティッシュの二種類です。飽和してるコップもありますね。でも溶けずに下に溜まっている姿も「愛おしい」ですね。
福:溶けにくいのはティッシュの方ですか?
岩:ティッシュは中々溶けないですね。
だた、落ちていく様はティッシュも綺麗なんで、ティッシュも入れようかなと。
青:じゃあ助川さん
助:僕の「愛おしい」は、このガラスケースの派手なやつです。電信柱から覗くような姿のつもりです。
これは箔押し工場の見学に行った際に思いつきました。箔押しの工程は紙に対して箔フィルムを版がポンと押しますね。
その機械が余計な部分を剥がしてその工程は終わるのですが、剥がす前に機械を止めてもらって、そのまま取り出したものに手を加えて作品にしました。
青:ほんとはこの耳のところだけ残して、ぴゅっと剥がす。
助:そうですね。
助:生物展の中で唯一印刷工場にお願いしてつくったものです。僕の古巣GRAPHに協力してもらいました。
青:唯一、イラレを使っている?
助:そう、箔版のデータを作るのにここだけ使いましたね(笑)
青:では福島さん
福:「江戸小染 はな」という用紙なんですが、よく見ると小さい花の模様が入っています。
その一個一個を立ち上げてつくりました。カッターで切って(笑)
そういうちっちゃくて可愛らしい雰囲気を「愛おしい」として紙で表現しました。
青:みなさん、これよく見て。ただの丸かと思ったら、よく見たら一つ一つ花の形が。
「怖い」
岩:僕は結構単純なんですけど、「OK ACカード まくろ」と「オフメタル」という用紙を合紙して鏡みたいにしました。割れた感じを演出すると怖いかなあ、と。見たままなので解説は…(笑)。切ってるときは、その紙が自分の手を切りそうに見えて本当に怖くなりました。
青:金属っぽいですよね。
岩:オフメタルだけだとこんな風にならないんですけど、裏に「OK ACカード」を合紙することで鏡ぽくなりましたね。
青:では福島さん。
福:僕のも「OK ACカード」です。イメージしていたのは一般的な黒のケント紙の照りだったりだとか、紙のエッジの鋭さが怖いなと思い、それを表現できないか、と。
竹尾さんに聞いたら、「OK ACカード」が一番ケント紙に近いと。おびただしい数のものが規則的にそろっているものを作ろうと思ったのがそれです。だから、今日の5時くらいまで紙を切っていました(笑)
青:朝の(笑)
福:ほとんどこれに時間を費やしていたんじゃないかと思います。
なので僕のプロフィールに書いたのですけど、好きな紙は「OK ACカード」と。仲良くなれた気がします(笑)
では助川さんどうぞ。
助:一番最後までこの「怖い」だけ迷っていました。場所で決めたんですけど、ここに黒い妖怪みたいなのいたら怖いかな、って。
あと、竹尾のスタッフさんが裏の倉庫へ行く際にここの扉を開ける時に、引っ掛かりそうで怖い(笑)
青:営業中その棚を開ける時に、後ろから誰か見てる感じがあったってスタッフが言ってましたよ(笑)
「恥ずかしい」
岩:ポスターとかをよく、くるくる巻いた状態で納品されて。それを見てるとなんか恥ずかしがってんな、って(笑)。
で、紙質や斤量の違いから戻り方が違うので、紙によって恥ずかしがり方が違うというのも楽しいんじゃないかなって。
青:一番はずかしがってるのは、赤い紙?
岩:青いやつとかですかね。
サガンGAなんですけど厚い方が跡はつきやすいんですけど、どうしても巻きにくくてゆるくなっちゃって。
青:助川さんの「恥ずかしい」は?
助:そこに青い紙を9個並べているんですけど、製紙工場の見学行かせてもらったときに、紙の没作品を「恥ずかしい」紙として展示させてもらえないかっていうのを申し出て。9個のうち1つだけOKで、他は没なんですよね。世に出すには恥ずかしいわけですよ。でもこの僅かな差を追及されているのに感動したんですよね。恥ずかしいと言いながら、恥ずかしくないですよね。
紙を貼った壁の下にiPadで映像作品も置いています。
青:多分機械で数値で見たらほとんどOKな色なんです。色って機械で管理して最後は人の目で見て、ダメって弾く。そのレベルの差ですね。
あともっと興味深かったのは、紙って抄紙マシンで作る最初は、細い巾でつなげて段々広がっていくんです。青山見本帖のスタッフも見たことないと思います。
青:じゃあ、福島さん。
福:僕の「恥ずかしい」は「ヴィベールP」っていうフェルトっぽいのが片面についた紙なんですけど、これ、刈り上げたら恥ずかしいんじゃないかと(笑)
バリカンで刈り上げて出たカスが、このシャーレに入ったものです。
青:福島さん、昔、自分もバリカンで刈っていたらしいです。見えないですけど。
福:2年半くらいずっと坊主だったんですけど、そのバリカンでつくりました(笑)
剃ってる方が濃い方なんですけど、ついている方が浅く見えるのが不思議だな、って。
色がきれいだな、って。
青:そうなんですか。僕、今まで逆だと、、
お客さんB:この紙自体はフロッキーですか? ※2
青:フロッキー加工ではなくて、PPを熱で溶かしてフワフワさせたものが紙に貼られています。
今は見なくなりましたが、以前はCDの下のクッション材に使われていましたね。
同じ作り方でモップの素材も作っていたりするんですが、ヴィベールはフワフワの部分を短く刈っているんですが、今回はさらに刈っていただいて、、、、(笑)
岩:ちなみに何ミリでカットしたんですか?
福:1ミリ。髭剃りでも試してみたんですけど、全然ダメでしたね。剃れなかったです。全く。
だからヨドバシカメラで、良いバリカン聞いたんですけど、結局自前のものでやりました。
助:みんな画材屋とか行くのに、ヨドバシにバリカン見にいったんですね(笑)
「憎たらしい」
岩:僕の「憎たらしい」は結構悩みました。いろいろ試した時に、この「タントセレクト」の白の紙がちょっと透けるようで。モザイクみたいになるのが面白いな、と思っていて。これ、白しかならなくて。読めるようで読めない憎たらしさをこの紙で表現した。
これスプレー糊で止めているんですけど、紙象嵌※3してもこういう表現になるので、そういう使い方しても面白いのかな。
青:真ん中の文字って何書いているんですか?
岩:この展示で使った紙の名前です。読めないでしょ(笑)
助:僕の「憎たらしい」はたくさん天井から下げているやつです。普段仕事をしていて、厚い紙とか蒸着紙とか反りやすいのが憎たらしいな、と思っていて、それを表現しました。
今回反るために苦戦しました。結果的には紙同士を貼る前に加湿器で湿気を浴びさせてます。結構強制的に反らせましたね。
青:これ丸めているわけじゃなく自然に?
助:自然です。
青:では福島さんお願いします。
福:薄い紙をめくるとくっついちゃって顔をみせようとしない。薄い紙をトントントンと揃えてたんですけど揃わないな、あ、これって「憎たらしい」じゃん!っていう経緯です。
なので後でトントンとやって揃えてバインダーに入れてみてください。そのもどかしさが伝わると思います。
青:ちゃんと同じ位置に穴空いて揃えるようになってるんですね。
福:はい。だからあえて薄い紙と静電気をおこしやすい紙を重ねて使いました。紙がそのうちクシャクシャになっていくかもしれませんね。
「白々しい」
福:その奥にあるやつなんですけど。「フレンチマーブル」っていう大理石風の用紙がコンクリの空間に貼っているというのは白々しいな、と思ったんですけど。案外気づいてもらえなくて(笑)
こんなに白々しいのに。
青:でも意外と存在感あったりしますよね。
福:タイルに収めたがゆえに気付いてもらえないっていう(笑)
ほんとうは「ローマストーン」っていう似たような紙があって、僕の中ではその方がもっと大理石っぽかったんですけど。廃盤になってしまうと言われて。
助:大理石を模して紙にしたのを、逆に大理石に戻しましたね(笑)
青:では助川さんの「白々しい」を。
助:僕の「白々しい」はそこのベンチに置いてるクッションです。シュレッターでできたカスを入れたものと、もっと紙の束が大きいの二種あって、大きい方はこれもダイオーペーパープロダクツさんにご協力いただきました。
紙の製作工程上、最後に紙の耳をパーっと切って仕上げるんですね。
青:その紙は何なんですか?
助:「きらびき」です。良い紙でしょ(笑)。細いのは普通のシュレッターのゴミです。是非座ってみてください。
青:耳の方がふわっとしてますね。
では岩永さんシメを。
岩:僕の「白々しい」は色んなところに点在させて、見つけてほしいな、と思っています。
分かりやすいのを2個だけいう言うとその壁と床、そして椅子。あとは見つけてみてください。
青:じゃあ、見つかるまで終わりにしないっていう、、(笑)
皆さん見ていただいて。1つはすぐ分かる。
岩:1つは見つけられると思うんですけど、もう1つは誰も気づかない。
お客さんD:これですか?白々しい。。
岩:白々しい。いいお声いただきました(笑)
まとめ
助:改めて2人の話も聞いてみて、やっぱり普段の仕事の経験が生きていて面白いですね。
福:すごい刺激が多かったな、と思います。それはSTOCK MEMBERS全員含めて言えることなんですけど。あと3人でやったからもありますよね。
助:週1くらいで会ってましたよね。最初に見せ合った時に、あ、みんなイラストレーター使ってないぞ、って感覚が合致した感じありました。
岩:僕も2人とやって、僕には絶対思いつかないこととか、そういう視点とか面白いなって。
これ以外にもこんな紙の使い方したら面白いなあ、っていうのがいっぱいあるんで。
福:是非巡回したいですね(笑)
青:6年やってて、こんな会場の色んなところを使われたグループはいなかったと思いますし、イラレ使ってないところや、単純に造形だけじゃない考え方とか、僕らもすごい参考になったなと思いました。
改めて3人の方に拍手を。
岩、助、福:ありがとうございました!
※1 グラフィックデザイナーなら必ず使うと言っても過言ではないアプリケーション「adobe Illustrator」。イラストを書くだけでなく、紙面レイアウトや印刷用入稿データ作成のためにも使う。略して“イラレ”。
※2 フロッキー加工、フロッキー印刷とも言う。印刷面に特殊な接着剤をつけ、細かい繊維を植毛し、絨毯のような仕上がりになる。
※3 象嵌(ぞうがん)が工芸技法のひとつ。一つの素材に異なる素材を嵌(は)め込むもの。金工や木工、陶象でみらえる手法だが、これを紙に対して行うのが紙象嵌。紙に対し別の紙を嵌め込み、印刷では表現できない紙の質感の違いが出せる。
(右)岩永和也 Kazuya Iwanaga 1985年長崎県生まれ。ドラフト入社。2018年に株式会社グランドスラム入社。好きな紙はギルバートオックスフォード。なぜかいつも気になる存在なので。
(中央)福島周 Shu Fukushima 1983年東京都生まれ。制作会社などを経てvillage®️に入社。2016年に独立し、フリーランスで活動。好きな紙はOK ACカード まくろ 354kg。この展示で仲良くなれた気がするので。
(左)助川誠 Makoto Sukegawa 1979年神奈川県生まれ。GRAPH入社し、北川一成に師事。 2014年1月独立し、SKG株式会社設立。好きな紙は折り紙。娘と遊べるので。