“ブランド=人”と捉える。 京都造形芸術大学特別講義より

「僕なりにブランドを定義してみました。ブランド=人。
人がブランド、名前はもちろんブランド名で、顔がロゴ。そして心(信念)はコンセプト。」
京都造形芸術大学 通信教育部空間演出デザインコース特別講義「ブランディングデザインの実践」の一部を抜粋・編集し、Stories用に再構成しています。

ブランディングという言葉がかなり多く用いられるようになってきたと感じています。それだけ社会にとっても必要な考え方だということが浸透してきているのでしょう。
ブランディングはブランドをつくることと捉えることができますが、ではブランドとは何か。
この定義は人により若干異なるようです。
見てみましょう。

水野学氏 「ブランドとは“らしさ”である」
ブランドとはそのものが持つ個性や特徴、持ち味を表現している
<『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)より>

宮田識氏 「僕が考えるブランドとは、あらゆる面で差異化され、揺るぎないイメージを持つ存在。
(中略)要するに、ブランドになるということは本当に大変です。あらゆる面でほかとは違うーーそういうものは世界でも数少ない。それぞれの業界で1社くらいしかないでしょう。ブランドをつくろうと思ったら、企業側に相当の覚悟が必要なんですよ。
<『DRAFT宮田識 仕事の流儀』(日経BP社)より>

水野氏が言うその“らしさ”は何?というのをもっと具体的に述べようとすると、宮田氏の言葉になるのかもしれないとも思います。そして宮田氏の「相当の覚悟」辺りの、難しい気持ちを含めたかのように、僕の師匠はシンプルに述べていました。

北川一成氏 「ブランドは根性」
北川氏の人柄が言葉に反映されているように感じ、良いですね。
今も時々ここに思いが戻る時があります。「根性!」と。同タイトルの書籍が出ています。『ブランドは根性』(日経BP社)

さて、僕はブランドをどう捉えているか。
僕なりに定義してみました。

「ブランド=人」

こう捉えると、ブランディングデザインに関する言葉が色々整理できることに気づきました。
名前はもちろんブランド名で、顔がロゴ。心(信念)はコンセプト。
そして誤解を恐れずに言うと、服装を決めるのがアートディレクションでしょう。

そんな人との「約束」も重要です。ブランド・プロミスという言葉は、そのブランドが保証している品質や価値のことですが、この品質がこの人の出す約束と言えるでしょう。

そしてブランディングデザインはこの信念にしっかりコミットすることが肝であると考えています。つまり、ここができていないと、ブランディングデザインをしているとは言い難いとも。
信念は当然顔にも滲み出るし、共感できる信念を持つ人は友達になりたいし、応援もしたくなる。

ところで1980年頃CIブームがありました。特にデザインに関して述べると、開発されたロゴは、その展開用にCIマニュアルが存在し、使用法が厳しく管理されます。つまり、ブランド(会社)の顔であるロゴをどんな場面でも同じように出すことが、このCIかと思います。 これはこれで重要です。広告等のように流行に左右されることなく、同じ顔を印象付けるために。

顔には表情がある

でも人の顔には当然表情があります。だからロゴにも表情があって良いと僕は思っています。
吉祥寺にできたタピオカミルクティー専門店「ティーマルサン」を例に。
このブランドの信念であるコンセプトはTEAの頭文字になぞらえて「Taste, Enjoy, Arrange! トッピングを楽しもう!」です。そして顔であるロゴはそのまま顔ですね。また、デザインコンセプト、伝え方の考え方ーー性格と言っても良いかもしれません、これは“お茶目なマルさん”。表情が登場場面で様々で、紙面のレイアウトなどは茶目っ気あるようにしています。

表情豊かにバリエーションを作りたかったので、初期ロットが大量に必要なカップに直接印刷する方法ではなく、シールを貼っている。

「アートになった猫たち展」でも表情豊かにロゴを展開しています。漢字がモチーフの猫は、チラシ、ポスター、チケット、バナーと全部表情が異なるようにしています。
楽しく表情豊かなロゴを展開することで、デザイナーが楽しんで作っていることが運営側に伝わり、士気が上がったように感じています。さらに発展してSNSでも、その楽しさがお客様に伝わったと感じる投稿が相次いでいます。

(上段左から)フライヤー、ポスター、招待券、割引券
(下段左から)六角柱バナー、会場入口バナー、券売機前バナー、展示室入口バナー

マルサンも猫もキャラクターと言ってしまえばそうなのですが、僕らはあくまでもロゴとして捉えています。青木慶則氏の事例では、MV「どじょんこ消えた」でロゴが表情を持って動き、ロゴの形状が実は鍵盤をもモチーフしていたということまで込めています。
さらに、PV「ヨシくん」では完全に変形していますね。
でもいづれも同じ「人」なのですよね。

Music video「どじょんこきえた」
PV「ヨシくん」

まとめ

かつてのCIブームの手法ではイメージは統一されるものの、その一方ですぐ飽きられてしまうでしょう。現在の成熟された市場では「変わらないイメージ」と同じくらい「変化するイメージ」が求められると思います。ブランド=人と捉えると、変化も自然と受け入れることができますね。
そうやってブランドの心にしっかりコミットして、人の心を動かすことのできるブランディングができればと思っています。

2019年6月12日

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シンガーソングライター 青木慶則