【EVENT】第3回印刷物研修 もう一度、紙と向き合う 〜製紙工場編〜

監修 ダイオーペーパープロダクツ

SKGでは印刷への知識を深めるべく、不定期に印刷研修会を開催しています。
第3回は、「生物(なまもの)展」の作品制作のため、ダイオーペーパープロダクツ様(以下DPP、敬称略)の富士事業所へ。
ここではデザイナーにはお馴染みの“アラベール”や“ヴァンヌーボ”などといったファインペーパーや、エンボスオーダーシステム“T-EOS(ティオス)”など、紙の専門商社である竹尾様(以下竹尾、敬称略)の紙を製造しています。

制作作品としては、紙を検品される姿が撮影できれば十分だったのですが、せっかくの機会だったので、SKG研修会として、この工場で行われている全工程を見学させていただきました。
その工程を振り返りながらレポートいたします。

紙は大きく6つの工程を経て作られます。
[パルプの積み合わせ]→[離解・叩解(こうかい)]→[抄紙(しょうし)]→[加工・断裁]→[検査・包装]→[リサイクル]
実際にその製造現場を見学しながら、紙がどう作られているのかレクチャーしていただきました。

※竹尾の青山見本帖で行われた紙や印刷の勉強会“STOCK MEMBERS”の修了展

目次
1.紙づくりは[パルプの積み合わせ]から
2.パルプを混ぜ絡める[離解・叩解(こうかい)]
3.紙の形をつくる[抄紙(しょうし)]
4.紙に個性を持たせ、納品サイズに[加工・断裁]
5.最終チェック、お客様の元へ[検査・包装]
6.どこまでもエコな工場[リサイクル]
7.見学を終えて

1.紙づくりは[パルプの積み合わせ]から

紙の材料には“パルプ”という、植物繊維が使われています。
パルプには、木材パルプと非木材パルプの二種があります。

DPPでは、主に木材パルプを使用しています。
木材パルプには針葉樹パルプと広葉樹パルプがあります。
針葉樹パルプの繊維は太くて長いため、紙袋などに用いられるような、強度が必要な紙の材料に適しています。
一方、広葉樹パルプの繊維は細くて短いため、表面が均一な紙の製造に適しています。

左は針葉樹パルプ、右は広葉樹パルプ。針葉樹パルプは力を入れてもなかなか破れないのに対し、広葉樹パルプはさくっと破れます。

また、非木材パルプにもそれぞれ特徴があり、木材パルプに混ぜて使うことで、できあがる紙に風合いや強度の違いなどを出すことができます。

2.パルプを混ぜ絡める[離解・叩解(こうかい)]

原料のパルプシートを水に溶かしドロドロの状態に[離解]した後、叩解機を使ってパルプの[叩解]を行っていきます。
叩いてすりつぶし繊維を膨らませ、毛羽立たせることで、繊維と繊維を絡まりやすくします。
製品に求められる品質に合わせて、[叩解]の強さを調整します。
叩解を強めることで、パルプ繊維(フィブリル化が進み)が絡まり引き締まった紙となります。
しかし、ファインペーパーは使用用途が多種多様であり、風合いが重要視されるため、アイテム毎に叩解を調整しているそうです。

パルプシートをドロドロにして[離解]した状態

そして、このタイミングで顔料や染料を使ってパルプに色をつけます。
この段階では製品の目指す色に対して、約90%まで色を合わせます。
ここで完全に合わせてしまうと、気温や湿度によって起こる色ブレを、後の[抄紙]工程の際に調整できなくなってしまうため、10%ほど調整できる余地を残しています。

3.紙の形をつくる[抄紙(しょうし)]

抄紙機のプレスパート。シート状になった原料パルプから水分を絞っていきます。

混ぜ合わせた原料パルプを抄紙機でシート状に形成していきます。
抄紙機は“ワイヤーパート”、“プレスパート”、“ドライヤーパート”の順に、3つのパートに分かれています。
抄紙機には、ワイヤーパートの方式が異なる、“長網抄紙機”と“円網抄紙機”の2種類があります。
製品の仕様などに合わせて、使い分けています。

長網抄紙機
長網抄紙機はワイヤーを振動させることで、ワイヤー上の原料パルプを均一にし、ワイヤーの網目から水分を抜いていきます。高速で紙を抄くことができるのが特徴です。

円網抄紙機
円網抄紙機は円筒状のワイヤーを複数使用することで、多層のシート状にすることができるため、厚みのある紙を作ることができます。
また、特殊なワイヤーに変えることでワイヤーマークという透かし模様をつけることも可能です。

抄き始めの時点では、紙幅が細い状態で機械に通します。紙が3パート全てを通過した頃、だんだんと紙幅を指定のサイズに広げていきます。その際、紙が切れないように注意深くチェックします。
円網抄紙機でワイヤーマークをつけた紙、“STカバー”。ストライプのような透かし柄が見える。

シビアな色調整。90パーセントから100%へ

[離解・叩解]の際に90%まで合わせた色を[抄紙]の工程で100%まで合わせていきます。
測定器により色を数値化したデータを確認した後、最後は人の目でチェックします。
じっくり見比べなければ分からない程度の差でも、ぴったり合わせていきます。
目指す色の許容範囲がかなり狭く、高水準の品質が保たれていることが分かりました。

「生物展」 では、“T-EOS用紙GA あい”の色合わせ途中の紙を【恥ずかしい紙】として展示しました。しかし、色の差は極わずかです。恥ずかしくない紙をつくるため真摯に向き合う姿がとても印象的でした。
特定の光源を使用して、色の目視確認をしています。
色が合っていない紙は、捨てずに再度溶かし、原料として再利用します。

4.紙に個性を持たせ、納品サイズに[加工・断裁]

紙を抄いた後に加工を行います。
紙に塗液を塗り、印刷適性を付与する“塗工加工”と、紙に凹凸のある柄をつける“エンボス加工”があります。
エンボス加工機の近くには、“ギンガムGA”や“サガンGA”などの加工に用いられる、エンボス柄が彫刻されたロール(ロール状の型)がたくさんありました。
そして加工後、指定のサイズに断裁していきます。

さまざまな加工を施された、個性あふれる紙。
紙の断裁時に発生する不要な部分は“紙の耳”と呼ばれます。再度溶かし、抄紙工程で原料の一部として再利用されます。

5.最終チェック、お客様の元へ[検査・包装]

紙によって決められた枚数を束にして梱包していきます。
紙はすぐに弛んだりシワになったりするので、慎重に取り扱われていました。

6.どこまでもエコな工場[リサイクル]

工場ではゴミを減らすよう様々な工夫がなされています。
紙を抄いた後にでる廃棄物“ペーパースラッジ”は、専門業者に引き取ってもらい、そこで燃料として使用される他、一部は靴底や鉢植えなどに再利用されるそうです。

ペーパースラッジの山。
様々なものに再利用されていきます。

見学を終えて

まず何より、工場の方々の真摯な姿に圧倒され、日々の紙と向き合う自身の姿勢も変わったような気がします。
ところで、特に海外のハイブランドでは、パッケージやショッパー等、紙からオリジナル制作している場合が多いなと、気になっていました。また、日本でもバナナの皮やコーヒーのカスといった、通常廃棄するようなものを混ぜた紙を見たことがあります。オリジナルの紙をつくるなんてことは、仕事の規模が相当大きくないと無理なんだろうと勝手に想像していたのですが、この研修会のように実際に工程を一通り拝見すると、現場が想像できるようになり、オリジナルの紙をつくることにも親近感を覚えました。
“T-EOS”は言わば紙のカスタムオーダーシステムですが、まずはこれを利用したブランド独自の紙制作もしてみたいし、さらにもっと独自性のある紙開発にもグッと意欲がわいてきています。
「魂は細部に宿る」と言いますが、紙そのものにもブランドの魂を込めていける仕事をしたいと思います。
そんなお仕事お待ちしています。

2020年4月

ダイオーペーパープロダクツ株式会社
静岡県富士市依田橋町7-34

余談ですが、この写真のアングルは歌川広重の『東海道五十三次之内 吉原 左富士』と同じアングルだそうです。江戸から京へ向かう東海道では基本的に右手に富士山が見える中、この辺りは道が大きく湾曲しているため左手に見えるのです。そのため“左富士”と呼ばれて、街道の名勝となりました。手前に映る大きな松は浮世絵当時の風情をしのぶ貴重な存在です。(写真提供:DPP)